2013年7月11日木曜日

グレゴリー・クラーク『10万年の世界経済史』

一万年の次は10万年かよ」と辟易することなかれ。この本は読むべし。良書である。第一章〔概論〕に示されたグラフを見るだけでもこの本〔上下〕を買う値打ちがあることがわかる。紀元前1000年から19世紀の初頭まで、世界の国々の一人あたり実質所得はほとんど横ばいで推移したのだ。それが19世紀の産業革命で劇的に変化する。先進諸国で一人あたり所得が激増するのだ。一方でその他の国々では逆に紀元前に水準以下にまで逆戻りしてしまう。なぜこんなことが生じたのか?著者はマルサスやダーウィンの理論を実証する形で、さまざまな統計データを駆使しながら、非常に緻密に検証して行く。これは職人芸。

それにしても邦訳タイトルはあまりに真っ正直でつまらない〔例によって出版社は売上を気にしたのだろう〕。原題は "A Fairwell to Alms"。ヘミングウエーの『武器よさらば』じゃないかと空目してしまうが、よく見ると "Arms〔武器〕" ではなく "Alms(援助)" となっている。つまりこの世界の富の格差問題には有効な解決策は見あたらないという著者の悲観論が結論になっているわけ。これもあまりに真っ正直な話ではあるが、偽善を信じ続けるよりは遙かに建設的。結局、今後も先進諸国への貧困国民の大量移住が続くし、これしか世界の貧困問題の解決策はないと言うことかも知れない〔ゲルマン大移動の21世紀版か〕。買う気がしなくなったかも知れないけど、分析手法自体〔及びそれが明らかにするディテール〕が非常に興味深いので、心からおすすめ。

10万年の世界経済史 上


10万年の世界経済史 下

著者〔グレゴリー・クラーク〕は、日本に住んでいて房総半島に「俺様キングダム」を建設してしまったグレゴリー・クラーク教授とは別人物。英国とインドの経済史を研究してきたアメリカ人である。

ちなみにやたらとジェーン・オースティンの『高慢と偏見』が引用されている。エリザベスの家族は「貧しい」とはいいながら当時の英国社会では上位1%に入る富裕層家族だったとか、お金持ちのミスター・ダーシーは召使いを50人は傭っていたはずだとかいろいろ。確かにあれは面白い本なので女性専用にしておくには勿体ない書物である。小説を読むのが面倒な人にはBBC製作のドラマDVD版がお奨め。やたらお金の話が「普通の家庭」の会話に出てくる。これこそ産業革命の原動力だったのか〔とはおいらの新説〕。


高慢と偏見 [DVD]

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